1986年ブルックリン。バークマン家のバーナードと妻ジョアンは離婚することになった。16才の息子ウォルトと12才の弟フランクは、曜日によって父の家、母の家と別れて暮らすことになった。普通じゃない生活にとまどいながらも、受け入れなければならないと、息子ふたりは努力する。しかし、心はずっと諦めともとまどいともつかない複雑な感情で、揺れ動いていた。
ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』を共同脚本したノア・バームバック監督作。両親の離婚で風変わりな生活に直面せざるをえなくなった兄弟の複雑な心情を、ユーモアを含みながら描いた人間ドラマ。作家としての成功から遠のいてしまった父と、作家として成功した母という皮肉な元夫婦の心のすれ違いが、曜日を決めて両親のもとを往来する兄弟の心を傷つけていく。若いのにすでに人生を諦観しているように見える兄弟が悲しい。家族とは、子どもにとっての両親の存在とは…と、シリアスな問題をシニカルなユーモアのオブラートで包んで見せる人間ドラマ。(斎藤 香)
Amazonレビューより
この作品、トラブルの最中にあり次第に心が離れていく家族4人の生活を描いたものでありますが、真のテーマは長男ウォルトの成長にあると感じました(少し前に観たので多少あやふやな箇所があるので予め断っておきます)。
崩れていく生活の中で戸惑いながら過ごす子供達。弟のフランクは行き場のないストレスから飲酒を繰り返して不安を紛らわそうとするが、結局彼が求めたのは甘えさせてくれる母親の存在。逆に兄のウォルトは家族離散の原因を母親の浮気だけに決めこんで、母親を蔑視します。尊敬する父を頼りたいのだが、父親も父親で、自分以外の人間を軽蔑し、プライドと嫉妬が凝り固まったようなその偏屈な性格が徐々に露呈してくる。両親への不信感と弟への心労とで鬱積したウォルトは、あるとき学校で問題行動を起こしてしまいます。
終盤、学校関係者の勧めでウォルトはカウンセリングを受けることに。カウンセラーはウォルトの行動の端に隠れたトラウマを読み取り、幼いときの思い出を尋ねる。ウォルトは、小さいときに見た「イカとクジラ」の博物館展示に思い当たる。しかし、覚えているのは展示物が恐ろしかったことと、怯える自分を優しく慰めた母親の姿ばかりで、そこに父親はいなかった。
その後、部屋を飛び出したウォルトは突き動かされるように博物館へ走り、幼き日に見た「イカとクジラ」を改めて鑑賞。以前はあれほど恐ろしかったものも、今となってはどうということはない。再び駆け出したウォルトは、どこか晴れ晴れした表情で近くの池に思い切り良く飛び込む。
自立心が芽生え大人に近づきつつある中で、やはりまだ頼るべき人を必要としている難しい思春期の様相を淡々と、しかしとても繊細に描かれていると感心します。ウォルトは、親として犯してはならないことをしてしまった母親を当初は許せませんでしたが、昔は自分に愛を注いでくれたことを思い出し、反対に厳格で崇高にも見えた父親がいかに未成熟な人間であったかに気がつくのです。
この物語ではかなりドラスティックな状況でウォルトの心は変化を見せましたが、どんな人でもこの変化はそれぞれのタイミングで起きるものです。親を「自分の親」としてしか見ていないと、親のだらしない部分って許せないものですし、変な錯誤が挟まったりしてしまいます。しかしそれを通り越して、自分の親であっても「1人の人間」なんだと客観的に見ることができるようになったとき、至らない点も目につくようになりますが、それ以上の尊敬すべき性質も見出すことができるようになり、子供のとき以上の感謝と理解をもって愛することができるようになります。
なんだか、自分の思春期終盤の心情を思い出させる素晴らしい映画でした。
ちなみに劇中でウォルトが弾き語りするのはフロイドの「Hey You」。The Wall に収録されています。
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